送電網と送電ロス

電気は遠くの発電所でつくられて、延々何百キロという旅をして私たちの家まで届けられます。たとえば巨大な火力発電所や水力発電所、そして原子力発電所、原発です。出力が100万kW、200万kWというような大きな発電所でつくられた電気は、大都市の近くまで運ばれ、そこから細かな配電網に分けられて各家庭や事業所、工場などに供給されます。

しかし、送電線を通る間には「抵抗によるロス」があり、1割〜2割の電気が失われてしまいます。何百キロもの間には、細い送電線でそのまま送ったとするとほとんどなくなってしまうとも言われています。そこで送電線を太くして、さらに最初にロスを減らすための電圧に上げる作業「昇圧」が行われます。それを行うのが変電所で、例えば一気に50万ボルトに上げるのです。

都市の近くになると、個々の需要家への配電網に入れるために、今度は減圧します。これも変電所で、いったん2万2千ボルトに下げ、さらに街の中で6600ボルトに下げます。私たちが目にする電柱をつないでいる電線には、だいたい6600ボルトの電気が流れています。

そして、事業所や家庭に隣接した電柱等に設置された変圧器で、最後に200ボルトや100ボルトに減圧されて電気が供給されます。結構、上げたり下げたりで、この変圧のときにも電気のロスが発生しますから、ずいぶんと効率の悪い運び方をしているわけです。(図1)

図1 発電所から家庭まで

ところで、皆さんはkWとkWhの関係がわかっていますか。

ユーザーが1万kW消費しているときに発電所が1万kW発電して送電網に入れるというのは、ある瞬間の話です。実際に電気を使うのは瞬間だけということはなく、ある程度の時間が継続します。1万kWを1時間継続したら1万kWh、10時間継続したら10万kWhとなります。図2に示すように、kWは瞬間の力、kWh(キロワットアワー)は継続した量を示す単位です。発電所の規模などはkWで表記されて、各家庭の電気の使用量などはkWhで示されます。電気について考えるときは、kWとkWhの両方を理解する必要があるのです。

図2 kWとkWhの関係

100万kWの原発に比べると、大規模ソーラー発電でも1000kW、風力発電で1基せいぜい3000kW。1000分の1程度ですから、誤差範囲レベルに入ってしまいます。「送電線の中で消えてなくなっちゃうよ」という意見もあるほどです。でも大丈夫です。再生可能エネルギーの電気は、ほとんど金色の枠の範囲(図1)で発電されて消費されています。つまり近くで使われるので送電ロスも少ないのです。

いまはまだその段階ではないですが、再生可能エネルギーがどんどん増えて、風車が100基30万kW、200基60万kWという規模になってくると、金色の枠の範囲を超えて隣の地域、さらに少し遠くの都市へと運ばれるようになるでしょう。そうなった時には風力発電の電気も大量に送ることになり、ロスの少ない直流送電も選択肢に入ってくるでしょう。

ではいま、東京では風車の電気は使えないのでしょうか?

物理的な電気という意味ではそうなります。北海道の風車の電気が東京まで届くことはありません。じゃあ、「東京で風車の電気を売ります!」という新電力(日本で10の地域名のついた○○電力ではない電力小売会社)は詐欺なのでしょうか。いいえ、そうでもないのです。電気を使うということは、どこに電気の代金を払うかであって、物理的な電気を使うということとイコールではないからです。

図3を見てください。まん中に電気の池がありますが、これが送電網です。この池の水(電気)は同質ですから、もともと、どこから生まれた電気かを選り分けすることはできませんし、してもいません。この池に上から1万kW流し込んで、下から1万kWを使えば、その距離が遠く離れていても、瞬時に供給したことになります。このときの送電網は送電線ではなく、文字通り「池」=プールとしての役割を担っていて、送電のルールは、いわば「玉突き」ルール(1個押し込めば、1個が押し出される)みたいなものです。

図3 送電線は電気の池

枠で囲んだ新電力Aの発電所と、新電力Aのユーザーは、この電気の池によってつながっています。両者は新電力Aを通じて、契約関係にあり、ユーザーが1万kW消費しているときに発電所が1万kWを送電網(電気の池)に入れているならば、需給バランスは成立しています。

新電力Aと契約しているユーザーは、新電力Aに電気料金を払うことで、発電所に対して対価を支払うことになりますから、使ったのはこの発電所の電気と言うことになります。新電力Aが風力発電所と契約していれば、ユーザーは風車の電気を使うことができるのです。

さて、新電力Aの発電所がすべて再生可能エネルギーの発電所だとどうなるでしょう。自然現象に左右されますから1万kWをずっと続けられないかも知れません。もし1万kWを切ってしまったら、ユーザーは停電しないのでしょうか。

大丈夫です。送電網には、ほかにもいろいろな発電所がつながっています。送電網は常に満タン状態を維持するように管理されていて、どこかの電気で補填されています。弱小新電力でも停電することはないのです。

ただ、再生可能エネルギー100%ということにはなりません。発電所が、ユーザーの消費量をはるかに超えて、4万kWとか5万kWを送電網に流しているのなら、100%も可能かも知れません。

そんなときには、新電力Aは1万kWよりはるかにたくさんの電気を受け入れ、余剰になった電気を電力取引所や、他の新電力との契約に基づいて、ほかのユーザーに供給することができます。とてもよくできた、ムダのないシステムなのです。

更新日:2020年10月13日

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